ゆきなみ型DDHは何故生まれたか

 ゆきなみ型DDHは、外形的にあたご型DDGに酷似しているという点を挙げて「あながちありえなくもない」
 と言われることがあるのですが、性能面を比べてみると実際にはかなりの違いがあり、あたご型はおろか
 他の海自艦艇とも性格の違いが大きいことがわかります。

 ゆきなみ型特有の特徴として
 1・トマホーク及びハープーン改型装備による対地攻撃能力
 2・ミサイルの長射程化(あたご型搭載の対空ミサイルは中距離用、ゆきなみ型は長距離用搭載)
 3・変向翼VTOL機の搭載
 の三つが挙げられ、対潜水艦戦を主任務として整備されて来た海自艦艇の中では異質の性能です。


 特に変向翼VTOL機「うみどり」の搭載は注目すべき点で、後部のヘリポート付近のレイアウトは
 とりあえず「うみどり」さえ運用できれば良いという割り切りのようなものが感じられます。
 格納庫容積はむらさめ型と同一のため「うみどり」がギリギリ入る程度の奥行きしかないため、SH-60Jは
 尾部を折りたたまなければ収納不可能、しかもベアトラップは一本のため格納庫の出し入れは不便です。



 そもそもむらさめ型DDはヘリを二機搭載可能とは言っても通常は一機搭載が基本、
 (ヘリ用の人員居住スペースも一機分だけです)だとするとゆきなみ型も通常は「うみどり」かSH-60Jの
 どちらか一機が定数という可能性は高いでしょう。
 しかし、ベースになったこんごう型より船体を延長したにも関わらず格納庫の拡張を行わなかったのは、
 「うみどり」発着に必要な甲板スペースを確保するためだったのではないでしょうか(オスプレイ等の
 VTOL機は斜め前に向かって離陸するため、ヘリコプターのような垂直離陸はできないと聞いたことが
 あります。)
 加えて整備能力の高さがあります。原作の漫画では二式水戦との戦闘の後、無茶な飛行による機体への
 負荷や機銃の被弾を受けながらも艦内で完全に修理されています。充分すぎるほどの予備部品を積んで
 いることが伺え、補用機を積む必要もないのではないかと思えます。
 (この辺の能力は、陸上基地並みの整備能力を有していると言われるDDHらしい所だなと思わせてくれ
  ます。あくまでヘリ搭載可程度の能力しかないDDやDDGには出来ない芸当でしょう。)

 ゆきなみ型はそこまでして「うみどり」を運用したいのです。対潜哨戒、対潜戦闘ならSH-60Jで充分である
 にも関わらずです。
 この時点で対潜任務以上の目的があることが察せられます。


 次にトマホークやハープーン改型の搭載で対地攻撃ができるということ。
 とりあえず保有して良いのかどうかということは考えないとして、
 これは日本領海内では明らかにオーバースペックでしょう、例えば上陸作戦を行う際、おおすみ型輸送艦
 の支援を行うことも可能となるでしょうが、そんなことは空自に支援要請すればいいだけの話、
 となるとトマホーク搭載はあくまで「可能である」程度で平時は搭載していないと予想され、
 海外派遣の際(実際に使用するかどうかは別として)必要に応じて搭載ということになるのでしょう。
 そしてハープーン改は通常は対艦用、いざとなれば対地用としても使用可といったところでしょうか。
 (公式サイトのみらいデータにはハープーンではなくパープーンと書かれています。これはおそらく強化ハー
  プーン(パワード・ハープーン)の略称なのではないかと勝手に想像しています。通常のハープーンはもち
  ろんのこと、現在の護衛艦に主流となって装備されている90式対艦ミサイルとも、また違った特殊なミサ
  イルなのかもしれません。(ガダルカナルではVLSから発射してましたし))
 以上の特徴を踏まえた上で解釈した場合、ゆきなみ型DDHというのは、実は「空母代用艦」なのでは
 ないかと思わずにはいられません。

 建造の過程を想像すると、まずジパング世界の日本では何らかの理由で(原作の序盤で新ガイドラインが
 どうのとか言ってましたので、強引に関連付けられるでしょう)空母を保有する必要性があって(国内使用
 よりも海外派遣前提で)、防衛計画等で検討されたのではないかと考えます。
 しかし当然のことながら周辺諸国や国内世論の否定的な反応が予想される上、建造、維持にかかる予算
 も考えると実現はかなり困難です。
 そこで空母保有計画が不可能と判断され、妥協案として考え出されたのが、ジパング世界内で実用化され
 た「変向翼VTOL機」を護衛艦に搭載させるというものだったのではないでしょうか。
 これならばヘリよりも最高速が速く、空中格闘戦能力もあり、発着艦はヘリ用の設備がそのまま使え、
 戦闘機でありながら普段は対潜ヘリとしての使用もできる、(戦闘機ではなくヘリコプターですよという
 強引な言い訳ができ、DDHとしての体裁も保つことが可能)理想的な機体だったということでしょう。
 そして変向翼VTOL機だけでは足りない戦闘力を、対地ミサイルや長射程対空ミサイルで補うというもの
 なのかもしれません。


 もちろん、ゆきなみ型一隻だけでは空母の代用としては不十分で、状況に応じて2〜4隻の同時運用を
 することで、最低限必要な機動力と攻撃力を得ることができるでしょう。
 単艦では見た目に性格の不明な艦ではあるけれど、平時はヘリ搭載イージス艦として使用され、必要と
 あれば複数で艦隊を組み、空母代用艦として海外に派遣される。
 ゆきなみ型DDHとは、そういう艦なのではないでしょうか。
 ただし、変向翼VTOL機自体がまだ発展途上の機種であるため、ジパング世界内の海自としては
 「うみどり」運用のためのデータやノウハウを収集できればそれで良し、と考えているかもしれません。

 そして次世代に建造されるであろう空母型DDH(あくまでDDH(笑))は「うみどり改」を多数同時運用
 できるものになっているのではないか …等と妄想してしまうのです。


 (追記)
 食玩のうみどりに付属していた性能票の主要武装を見てみると、
 三砲身20mmガトリング砲、空対空ミサイル、空対艦ミサイル、対戦車/対艦ミサイル、爆弾、とあります。
 全てのミサイルを搭載するのは無理でしょうから、この中から選択ということになるのだと思いますが、
 短魚雷を持ってないあたり、対潜目的の機体ではなさそうです。
 しかし攻撃を100%命中させたと仮定して、駆逐艦一隻くらいなら行動不能にできるくらいの攻撃力を持って
 いるということでしょうか、強い、強いようみどり。

(考察にあたり、「架空艦艇建造委員会」様の 「形而上艦船第1研究室・<みらい>の謎T」を
 参考にさせて頂きました。)


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